ライントランセクト調査による個体数の区間推定1

ライントランセクト調査において、個体数密度の点推定値は以下のように与えられます。

\hat{D} = \frac{n \bar{s}}{2L \hat{w}} \tag{1}

ここで、$ n $は発見群数、$ \bar{s} $は調整された群れサイズ平均、$ L $は調査コースの全長、$ \hat{w} $は有効探索幅の推定値を表します。この式の導き方についてはわかりやすい資料や本などがたくさんあると思うので、省略します。

 

個体数密度Dの点推定値は求まりましたが、それがどの程度信頼性を持つのかをはっきりさせなければいけません。例えば下のIWCのHPでは、個体数の点推定値とともに95%信頼区間が示されています。

https://iwc.int/estimate#table

このブログでも、同様に個体数の95%信頼区間を求めることを最終目標にしたいと思います。なるべく高度な数学は使わないようにはしますが、それでも学部1年レベルの統計学微分積分学の知識がどうしても必要になると思います。

 

さて、まずは$ \hat{D} $の分散について考えてみます。式(1)の右辺に注目してください。このうち、Lはあらかじめ設定される値ですが、$ n, \bar{s}, \hat{w} $は調査の結果得られた値で、これらは確率的に変動します。つまり、これらの値はすべて確率変数です。つまり、$ \hat{D} $の分散を求めるためには、確率変数の積や商の分散を考えなければなりません。そのときに便利なのが、デルタ法と呼ばれる方法です。

 

<デルタ法>

互いに独立な確率変数X、Yがあり、それぞれの期待値をu、vとします。この時、積XYは一次近似式を用いて次のように変形できます。

\begin{aligned} XY  &\cong  uv + (X-u)\frac{\partial XY}{\partial X}(u,v) + (Y-v)\frac{\partial XY}{\partial Y}(u,v) \\ &= uv + (X-u)v + (Y-v)u \\ &= vX + uY - uv \end{aligned}

XとYは互いに独立なので、分散の性質($ Var(aX+bY)=a^2 Var(X)+b^2 Var(Y) $)より、

Var(XY)  \cong  v^2 Var(X) + u^2 Var(Y)

となります。商X/Yについても同様にすると、

\begin{aligned} \frac{X}{Y} &\cong \frac{u}{v} + (X-u)\frac{\partial \frac{X}{Y}}{\partial X}(u,v) + (Y-v)\frac{\partial \frac{X}{Y}}{\partial Y}(u,v) \\ &= \frac{u}{v} + \frac{X-u}{v} - (Y-v)\frac{u}{v^2} \\ &= \frac{1}{v}X - \frac{u}{v^2}Y + \frac{u}{v} \\ &= \frac{u}{v} \left(\frac{X}{u} - \frac{Y}{v} + 1 \right) \end{aligned}

Var\left(\frac{X}{Y}\right)  \cong  \left(\frac{u}{v}\right)^2 \left(\frac{Var(X)}{u^2} + \frac{Var(Y)}{v^2}\right)

 

 

式(1)にデルタ法を用いることにより、個体数密度の分散の近似値を得ることができます。結果だけ示すと、以下のようになります。

Var(\hat{D})  \cong  \left( \frac{n \bar{s}}{2L \hat{w}} \right)^2 \left(\frac{Var(n)}{n^2}+\frac{Var(\bar{s})}{\bar{s}^2}+\frac{Var(\hat{w})}{\hat{w}^2} \right)

 

以上より、$ Var(\hat{D}) $の値を求めるには、$ Var(n), Var(\bar{s}), Var(\hat{w}) $をそれぞれ求めてあげればよいことが分かります。これらの値の求め方を次回以降解説していくことにします。